消えたインレーの謎

時刻はAM11:00。

ここは地元屈指の人気歯科クリニック。

1日の来院患者数?

100人超えなんて日常茶飯事。

これは、のべつ幕無しに患者誘導をする

1人のポンコツ衛生士に起こった

真実の物語。

30分!!

これが私たちに許されるタイムリミット。

これを過ぎると時限爆弾‥…、いえ、

院長の感情が爆発してしまう仕組みなの!

みんな、気を付けて!!

ポンコツ衛生士が平常心を保ち

穏やかな嵐の後の凪のような心で

日々の任務を遂行するには‥

”院長の心を愛と平和で満たすこと”

これが、最も意義深い

衛生士業務と言えるわ!!

アルジネートの練習なんてしてる

場合じゃないの。

新卒さんはattention, please!!

さあ、あと2時間よ!!なんて思いながら

技工室からインレーを運び出す。

イソイソイソ。イソイソイソ。

名前よし!対合よし!三方よし!と

J Rの車掌さんばりに指差し確認を行い、

キャビネットの上に技工物を置く。

みんな!聞いて!

私は置いた。確かに置いた。

あの銀色に輝くインレー体を‥。

信用できないというのなら、

オーディエンスを使ってもいいわ!

問いかけた老若男女は口を揃えて、

こう答えるだろう。

ポンコツ衛生士は置いたよ!

ポンコツ衛生士は置いていたわ!

ポンコツ衛生士は確かに置いていたぞ!

と。

患者誘導をして、

椅子に掛けてもらうモーメント。

時間にして、僅か10秒。。

銀色のアイツは

キャビネットの模型から、忽然と

姿を消した‥‥。

え!なぜ?なに?

Why Japanese people!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

私の胸は鼓動を早め、

顔色‥‥、なんてものがあったとしたら

きっと、チアノーゼを疑われる程、

青ざめていたことだろう。

しかし、時は刻一刻と過ぎていく。

床に落ちているに違いない!!

そう信じて、

私はスパイダーマンさながらに床を這い、

埃にまみれ、銀色のアイツが

手を振ってくれる未来を描いた。

もはや、そこには清潔も不潔も

へったくれも無い!!

ただただ、見つかって欲しかった。

20分‥‥。

時計の針の指し示した時刻は、

まるで試合終了のゴングだった。

その20分は何事もなくインレーをsetして

穏やかな日常に戻れる自分を

夢見させてくれたが、

私が得た未来‥‥、それは‥‥、

じゃない方だった。

埃まみれのポンコツ衛生士の

ささやかな抵抗は、徒労に終わった。

無念‥‥。

銀色のアイツはタチの悪い

神隠しに遭ったの。

でもね、

どんな場所にも神の救いはあるもの。

日本には実に八百万‥ やおよろずの神が

いるのだから。

幸運にもポンコツ衛生士は

いつも、人に恵まれていた。

その最たるゆえんは、

地元の民に心から愛され、そのお姿を

一目見ようと患者さんが列をなす‥‥

そんな、

”愛”と”優しさ”と”慈しみ”を併せ持った

友なるイエスのような歯科医師!!

人徳の塊のような大先生の下で

業務を任されてることだ。

心優しい大先生はこれまた

心優しい患者さんに事情を説明し、

改めてご予約をとっていただくことで、

ことなきを得た。

人の心の優しさと

自分の不甲斐なさとの狭間で

5kg痩せたのではないかと思える

午前診療だった。

まったく‥‥。

”埃”ではなく”誇り”にまみれた衛生士に

なりたいものである。

最後は欽ちゃんに締めてもらいましょうか。

「なんでそう〜なるの!!」